ひろしま文化振興財団
トップページ 文化施設職員等研修 令和6年度文化施設職員等研修事業

【実施レポート】
多様な人々に文化芸術を届ける取り組みから考える これからの文化事業の語り場

●日時:2024年8月22日(木)14:00〜17:00(晴れ)
●場所:広島県立大学サテライトキャンパスひろしま 501・502大講義室
●ファシリテーター
 石川清隆さん
(東京藝術大学大学院 国際芸術創造研究科(GA)特任助手、ワークショップデザイナー)
●事例紹介(1)
 下江祥友さん
(ジーベックホール(府中市文化センター) 指定管理者 (株)賛興)
 竹内孝志さん
(和太鼓奏者 我龍 garyu 代表 ジーベックホール事業協力)
●事例紹介(2)
 村尾剛志さん
(丸亀市協働推進部 まなび文化課長、(公財)丸亀市福祉事業団市民会館開館準備室長)
●参加者:25名
●スケジュール
 114:00〜14:40 オリエンテーション・ワーク(1)
 14:45〜15:30 事例紹介(1):住民参加型事業を実践 府中市の取り組み
 15:35〜16:15 事例紹介(2):丸亀市市民会館「みんなの劇場」プロジェクト
 16:15〜17:00 ワーク(2)・ディスカッション

参加者募集案内はこちら

 全国各地で共生社会の実現に向け、多様な人々に文化芸術を届ける事業へのチャレンジが始まっています。
 今回、県内外で行われている多様な人々に文化芸術を届ける取り組みを知り、そこから得られた気づきを語り合うことで、各自がいま取り組んでいる事業をブラッシュアップしたり、新たな事業を企画する助けとなることを目的に開催しました。

◆14:00〜 オリエンテーション・ワーク(1)

講義のようす
 ファシリテーターの石川さんによるスケジュールやテーマの確認から始まりました。
 今回のキーワードである「共生社会」は、概念としてとても広いこと、文脈によって使われ方がさまざまであることから、 省庁のウェブページに記載されている「共生社会とは」の一つを例として取り上げ、言葉のすり合わせを試みました。
 その後、4人程度のグループに分かれ、自己紹介ワークとしてお名前のほか、「共生社会」という言葉のイメージや講座への参加動機などを話してもらうことで、「自分と違う言葉のイメージや考え方を持っている人もいる」ということに自ら気づくという、共生社会を考える上で重要な第一ステップを体験しました。

◆14:45〜 事例紹介(1):住民参加型事業を実践 府中市の取り組み
 広島県「文化芸術に関する地域住民参加型モデル事業」として取組まれた「ふちゅう芸能まつり 和太鼓フェスティバル」を中心に指定管理者の下江さんとプロ和太鼓奏者の竹内さんに、それぞれの視座でお話ししていただきました。

講義のようす
 府中市では、元々、地域の文化活動の担い手不足や、施設利用者の減少・高齢化といった課題がある中で、今回は、地域で活動が盛んな和太鼓に注目して、子どもから大人まで参加できる交流事業を目指して取り組みをスタートしました。
 実施したのは、府中市とその近隣の和太鼓団体が出演する各団体による演奏、複数団体によるコラボレーション演奏、すべての団体による合同演奏を披露するコンサートです。随所に参加者のアイディアが折り込まれ、変化に富んだ内容となりました。複数団体の協働を成功させるには、各団体の演奏スタイルの違いや団体間のバランスを調整する必要があり、実演者が持つ、その分野における知識や経験を踏まえた支援が重要な役割を果たしました。
 プロが関わることで、作品の質を高めるとともに、複数の団体が一つの曲を合同で演奏する機会を設けたことで、これまで関わりを持つことがなかった、異団体間の参加者の交流が促され、演奏面では、個々の団体では出せない迫力を出すことができたり、団体間での演奏方法の微妙な違いに気づくなど、複数の点で成果が生まれました。竹内さんから、このような事業は全国各地どこでも実施できるのではと示唆がありました。
 事業実施後、和太鼓団体にメンバーが増えたり、参加団体が合同公演を行ったりと、担い手の増加や施設の利用にもつながりました。文化施設とアーティストの連携によって、地域の文化活動の可能性が広がります。

◆15:35〜 事例紹介(2):丸亀市市民会館「みんなの劇場」プロジェクト
 丸亀市では、令和8年9月に新市民会館がオープン予定です。市民会館整備に関わる行政の取り組みについて村尾さんに紹介していただきました。

講義のようす
 まず、市民会館整備について行った市民アンケートの結果から、会館を利用しているのは市民の5%とわかり、これまでのあたり前を疑いました。そして会館にとらわれず、すべての市民共通のテーマである「くらし」に着目。くらしの中で困難に直面する方々や課題解決に取り組む方々に会いに行くなど、これまでの会館利用者だけではなく、さまざまな市民と対話し、会館の必要性を探っていきました。そして考えた市民会館のコンセプトが「豊かな人間性を育む」「誰一人孤立させない」「切れ目ない支え合い」です。
 市民会館の「基本構想」「整備計画」「管理運営計画」は、コンサルティングに任せるのではなく、自分たちが自分たちの言葉でつくり、どんな状況の「誰」に、どんな「恵み」をどう届けるか、どんな「変化」をもたらせたいかを模索しながら、開館前から取り組んでいます。
 さまざまな人との対話からの気付きを形にしたり、鑑賞や演者、ボランティアではなく主体的に会館で活動できる仕組みを作ったり、市民が出演、制作、運営を担う公演会を実際にやってみたり、と整備を進めています。
 これまで会館の構想や計画などを作ってきましたが、会館を造るために作ったというより、会館でまちをどうするかをずっと考え続けています。丸亀市後期総合計画の目標に向かって、会館があり、事業があり、どういう人がいるかを考えて、徹底して取り組んでいます。

◆16:15〜 ワーク(2)・ディスカッション

講義のようす
 石川さんの声かけで、5人程度のグループにわかれ、初めて聞いたこと、これからやってみたいと思ったことなど、参加者それぞれにとって印象に残ったこと、すなわち、「各人にとって大事なポイント」を付箋に書き出してもらいました。その付箋をもとに、それぞれの感想や意見などグループのメンバーに紹介し合い、共有しました。
 グループへインタビューしたところ、「いろいろ気になったことがひらけた」「施設職員なので、行政側のお話が聞けたのが良かった」「参加者につながりができるよう頑張って伝えたい」といったコメントがありました。
 他者の話を聞くことで、共感を深めたり、新たな気づきが生まれたりします。また、生まれたもやもやは学び「タネ」につながります。ワークシートに今日の講座を通して感じたことを言葉にして、持ち帰って各自の振り返りとしてもらいました。少しずつ視点や視座を変えたり増やしたり、さまざまなことを考える機会となりました。

■参加者の感想
・府中市さんのように地域団体と協力してプロもまきこんで実施したいと感じました。
・カームダウンルーム、非常に参考になりました。
・共生に係る話題の際に分かり易い(といったら語弊があるかもしれないが)身体障害者にばかり焦点があたっていたところ、精神・知的障がいに対するアプローチは新鮮であった。
・自己紹介を通じて、回を重ねるごとにより洗練されていくのを体感して「ワークショップってこうだった!」と改めて再認識しました。
・考え方を変えてみることで、新しいことができそうだと思いました。
・鑑賞事業が主体の当館だが、参加型ワークショップを今後に検討していきたい。
・劇団で活動していますが、もっと公共劇場の方に相談しに出かけて行った方がいいと思いました。お互い協力する相手を探しているのではないかと感じました。