梅雨前のひかりとかぜに触れしとき声なきこゑす死没者名簿
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広島市
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丸亀 純子
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【評】風通しの日の歌。死者の声がわらわらと名簿の間から立ち昇るかのようだ。結句の重さと余韻が一首を支えている。
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【評】人柱という犠牲の上に作られた堤が今もその地を潤している事実の重みが胸に響く。七十五町歩の数字も効果的。
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万灯を掲げしごとく辛夷咲き峡は田毎に水走らせる
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庄原市
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家島 晶子
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【評】すぐれた叙景歌。辛夷の花は別名田打ち桜とも言う。峡の季節の始まりの躍動感と光、風、匂いまで感じさせる。
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白芙蓉真中につき出す長き蕊シンクロ乙女の足によく似る
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廿日市市
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中村 公子
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【評】意表をつく発想だが芙蓉の季節感とも相まって納得。蕊と共に白い花びらもまた揺れ広がる水紋のようでもある。
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【評】君を詠んだこの歌もまた一編の詩である。君の具体はわからないが作者のやわらかな眼差しと結句の余情がいい。
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