【評】百歳まで頑張って生きた媼の老年が、「遂に」「庭のどくだみ」で暗示されている。どくだみは薬草だが独特の臭みがある。多くを言わず、巧みな歌。
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若き日の育児記録の一直線空見ず花見ず子のみ見ている
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広島市
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小田 好子
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【評】育児記録に作者は今、当時の懸命さと余裕のなさを見ている。歳月を経て見えるものがある。「一直線」が良い。
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シベリアも舞鶴も話すなき兄なりき老いて文化祭にバイオリンを弾く
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尾道市
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中田 浩子
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【評】過酷な体験を封印して老いた兄を思う作者。バイオリンは深い音色を湛えていることだろう。哀しく美しい歌。
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「来年もお会いしましょう」被爆者の健診なせし医師より賜う
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庄原市
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蔦 トキエ
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【評】医師の励ましに感謝し、ひとまず安堵する作者。被爆から六十六年経てなお不安を抱えて生を繋ぐ。静かな反核平和の歌として読んだ。
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四斗樽の大根の上にどっかりとすわり込む石祖母の面影
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三原市
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纉c 淳子
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【評】沢庵漬にまつわる回想か。「すわり込む石」に祖母が重なる。確り者で家族に頼られた祖母だろう。下句がよい。
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