【評】出征前夜の記憶を今も生々しく回想。黙々と煙管を燻らせるのみの父親の心情。「蛍火」は総てを象徴している。
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呼ばれたるような気がしてのぞき込むトマトは五ミリの実を結びおり
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尾道市
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橘和 淑子
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【評】「呼ばれたるように」に淡い詩情がある。「五ミリの重さ」も実感させる表現であり、幼子の様な愛着を持たせる。
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背をさかれ枕並べし何百のウナギに産地聞くべくもなし
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三原市
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竹内 鏡子
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【評】産地偽装の問題に焦点を当てながらも、ウナギの非情な光景に心をうごかす作者。結句、含蓄に富む情愛深い表現。
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生き残りし集団自決の後の生認知症得て安らぎを得るとは
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福山市
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亀山 博恵
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【評】戦後六十四年、今尚、「集団自決の後の生」と詠まれる人のあることを忘れてはならない。下句、更に、つらい。
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【評】暗紫色の斑点をもつ橙色の鬼百合に原爆のもつイメージを重ねて妙。鬼百合の語感もいい。淡々とした表現に哀感がある。
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